勉強まとめ:政治-資源配分からみた政治の必要性
最近公開された映画「パンク侍、斬られて候」を観て(主題歌はセックス・ピストルズのAnarchy in the U.K.)「アナーキー最高、そもそも政治を執り行う必要はあるのか?」
とか思ったり、
「政治を執り行わずに市場の自由競争において”神の見えざる手”に任せておけないのだろうか?だって神だぜ?」
とか思ったりしていました。
勉強してみると、ちゃんと執り行う必要はあるみたいです。しかも、かなり腑に落ちました。政治大事。
今回も、以下の参考書を基にまとめます。
久米郁夫、川手良枝、古城佳子、田中愛治、真渕勝著、”政治学(New Liberal Arts Selection)”、有斐閣、2003年12月20日初版
以下、今回の目次
ここでの資源とは、政治関連の初めの記事で書いたような「主権者/国民(本人)」の利益や、利益を生み出すものです。この資源は天から平等に降ってくるものではありません。ここで、そもそも資源を平等にするのが正しいのか?という疑問が生じますが、社会の安定のためには必要だということが歴史を省みるとよくわかります。貧富の格差が一因になって社会が不安定になった例として、二二六事件、大塩平八郎の乱やファシズムの台頭などがあります(他にも多数)。
以上の例から、貧富の格差から社会が不安定にならないように資源の配分を行う必要があることがわかります。そして、どのように資源が配分されるのかは、以下の3つに分けられるようです。それぞれ例を考えてまとめてみました。
- 伝統的/倫理観に基づく配分
後輩や女性にご飯をおごるなどは現代の日本でもよく行われていることだと思います。イスラム教の五行の一つ喜捨は古くからある配分だと思います。 - 指令に基づく配分
会社として生み出した富を配分する際は、指令に基づき月給などで配分されるということがあります。他にも、社会主義国では財やサービスの配分が計画上で行われていました。 - 市場に基づく配分
古本屋を例にしてみます。極端な例としてこの世に古本屋が1つしかなかった場合、この古本屋に古今東西の珍しい本やら新品より安い本などが集まります。これは資源が一カ所に集まるということですが、それだけ儲かるならと新たな古本屋ができていき資源の配分が成されます。自由な市場では古本屋を自由にれる開業できるので、最初の古本屋を守り続けて資源が偏ることはありません。さらにこうなると、各種本の値段なども市場の自由競争の下で”神の見えざる手(スミスの言葉)”が働き、顧客から必要以上に資源を巻き上げることがなくなります。これが市場というシステムによる配分です。
はてさて、スミスは市場の自由競争の下では「神の見えざる手」が働くと述べています。”神”というからには万能なのだと思いますがそんなことはありません。「神の見えざる手」がうまく働く機能財は限定的なもので、自由競争のままでは失敗してしまう財もあります。財には2つの特徴によって分けられる4つの種類があります。以下でそれぞれの財についてまとめます。
- 財を種類分けする2つの特徴
1.排除可能性:他人が財を消費することを妨げられるかどうか
2.競合性:AさんがXという財を消費することで、BさんがXという財を消費できなくなること - 私的財(排除可能性あり/競合性あり)
身近な例として自動販売機があります。自動販売機は、お金がない人には飲み物を提供しないという排除可能性があります。また、コーラが好きなAさんが毎日たくさん買ってしまうと売り切れてしまい他の人(Bさん)との競合性があります。このような財は私的財と呼ばれ「神の見えざる手」が働く財でもあります。 - 公共財(排除可能性なし/競合性なし)
こちらの例は参考書そのままですが、防衛があります(p.40)。防衛の恩恵は全員が受けており(抑止力等)、特定の人から排除することは不可能であると同時に競合性はありません。このような財は公共財と呼ばれ、自由な市場のもとでは失敗してしまいます(後述)。 - 共有資源(排除可能性なし/競合性あり)
田舎での身近な例としては”ニラ”や”ヨモギ”があげられます。田舎ではあちこちにヨモギが生えているので排除の可能性はないですが、採ってしまえばなくなるので競合性はあります。また、ニラやヨモギ、山菜などは都内のスーパーなどでは値段がついて売られています。このような資源を共有資源といいます。 - 自然独占を生む財(排除可能性あり/競合性なし)
現代の若者には無くてはならない携帯(スマホ)の通信サービスは、利用料金を払わなくてはいけないので排除可能ではありますが、人が増えたからと言って利用ができなくなるわけではないので競合性はありません(厳密には通信量の競合がありますが...)。このような財は自然独占を生む財となります。自然独占を生む例としては、電波塔を始めに全国各地に建てた企業が圧倒的に有利なため自然独占が生まれてしまいます。
ここまで、4種類の財の種類をみてきました。ここでは、私的財以外の財が市場という枠組みにおいて資源配分に失敗してしまう例を挙げていきます。この市場の失敗をカバーするために政府/政治が必要となっていきます。
- 公共財(排除可能性なし/競合性なし):例)防衛
こちらは大変わかりやすく、ただ乗り(フリーライダー)を行うことができる問題が発生します。政府/政治を想定しない市場では個人の富を優先するような自由行動が行われるため、払うだけ損になります。払わなくても排除されるわけではないのでなおさらです。このような問題点があるため、政治によって「税金」、つまり代金を徴収することで、公共財/サービスは安定して提供されています。 - 共有資源(排除可能性なし/競合性あり):例)山菜
上記であげた例のように都会では値段がついて売れるため、ある一人の人が大量に採ってしまった場合、他の人が入手できなくなってしまいます。このように、自分の利益だけを追求する自由な市場では資源の枯渇と偏りが起きてしまいます。これを抑えるために、政治で決まり事を作って法的な拘束力を持たせることが必要となってきます。 - 自然独占を生む財(排除可能性あり/競合性なし):例)携帯(スマホ)の通信サービス
簡単な話、自然に独占が起きてしまうと利用料金の吊上げが起きてしまいます。経済的には問題がないことですが、資源の偏りが起きてしまう問題点があります。実際に、日本ではDocomo、au、Softbankがほぼ独占に近いシェア率を持っていましたが、電波の割り当てなどに政府が干渉し(政府が仕事をし)格安スマホ通信会社などがうまれています。
ここまでで、市場は資源を配分するよくできたシステムである、しかし失敗もする、その失敗をカバーするために政治が行われる、ということをみてきました。ここでは、市場が失敗するように、政治も失敗してしまう問題点を挙げておきます。
- モラルハザード
極端な例を挙げると、社会主義国の失敗です。政府が計画して/命令しておこなう事業では競争がないためモチベーションが保てず不真面目になってしまう問題があります。この現象がモラルハザードです。 - レントシーキング
ある特定の企業がある特定の政治家に働きかけ超過利潤(レント)を生み出す行為です。様々な規制を、特定の企業の都合の良いように排除したり新たに作ったり働きかける問題が生じます。これがレントシーキングです。上記の古本屋の例をもってくると、最初の1店目が利益の独占(レント)を図り政治家に働きかけるような行動がレントシーキングになります。実際に、よくワイドショーで取り上げれられる政治献金問題や天下りなどが生じています。
このように、市場の失敗をカバーする目的だった政治自体が失敗を起こしてしまう例もあるのです。市場の失敗、政治の失敗、どちらのリスクをとるかが以前のブログの「小さな政府」、「大きな政府」の対立軸にもなっています。その時その時によって小さな/大きな政府の評価は変わりますが、トランプ政権は「市場の失敗<政治の失敗」という考え方ではないかと個人的に思います(ナショナリズムの観点では市場の失敗を大きくみたりしているけど...)。
- 政治の必要性の流れのまとめ
資源配分が必要:社会の安定をたもつため
市場:資源配分を行う優れたシステムであり広く使われる
政治:市場の失敗をカバーするために執り行われる - 市場の失敗、政治の失敗
起きてしまうモラルハザード、レントシーキングの問題に加え、適切なカバーができなかった場合の政治の失敗も生じる
経済政策の評価を行う1つの基準として「市場の失敗」「政治の失敗」どちらにリスクがあるかを考える
当たり前ですがAnarchy in the JPN.とか歌ってられないなと思いました。資源配分が必要で、市場による配分には限界があって、政治が必要なんだと納得できました。そしてやはり、政治という学問では人間心理(モラルハザード/レントシーキング)も考慮していかなくてはならないところが難しいですが面白いと思いました。工学の研究では、数式で表されるのでそこに人間の感情はのっかりません。政治、難しいですね。
また、「小さな政府」、「大きな政府」の対立軸を考慮する際に「市場の失敗」「政治の失敗」を考えることで、ある政策/争点の評価が行えるが分かってよかったです。日本は「市場の失敗」「政治の失敗」についての議論より、「政治家の失敗」ばかり議論していて大丈夫なのか不安にもなりました。正直、小さな個人の政治家の失敗など無視してもいい気がします、政治で失敗してなければ。